2017年5月26日統一鉄道(ニャチャン→ダナン)

深夜に悪夢で目を覚ました。すでに電気の消えたコンパートメントが微かに煙たくて、おそらく廊下で誰かがタバコを吸っていた。3段ベッドの上ということもあり、バルサンを焚かれた虫の気分だった。残酷な道具だと思った。

次に目を覚ますと朝7時前だった。外は明るく、車内販売でアイスコーヒーを買った。ミルクを入れてもらった。

ニャチャンで下車するとすぐにズーさんに会えた。チケット売り場には何人か並んでおり、横入りも当たり前だった。彼は前の客にベトナム語でおそらく「この人急いでるので順番変わってくれませんか?」的なことを言ったのか、快く譲ってくれた。横入りするより賢い方法だと思った。

並びながら「できるだけ早い電車に乗りたい」と伝えると「ニャチャンなら案内できるしいいところだよ。少しいたら?」と言ってくれたが、今日中にダナンに行く、と言った。

チケット売り場の女性と何かしらベトナム語で話し「今そこで停車中の電車に乗れる」と教えてくれた。「それにする!何時発車?」と聞くと8:35発だと言った。すでに8:50だった。「走って!」でチケットとチケットのおつりをポケットにねじ込みダッシュで飛び乗ると、すぐに発車した。振り向くとズーさんがホームから手を振っていた。お礼を言う暇もなかった。

3段ベッドは懲り懲りだったのでソフトシートに座った。隣はオーストラリア人のおじいさんだった。喋り好きな人で、そこからダナンの3つ手前の駅で降りるまで、10時間以上喋り続けた。69歳の独身で、オーストラリアの年金で世界旅行をしていると言った。数年前にベトナムに来たときにはこの鉄道は2〜3時間遅れるのは当たり前だったが、今回は20分程しか遅れていないと言った。「いつかバイクでベトナムを縦断してみたい」と言うと、「前回ベトナムに来たときにバイクに乗ったが、特に田舎は道がでこぼこで、しかも山の上から岩が落ちてきて死ぬところだった。ベトナムでバイクは危ない、自転車にしておけ」と言われた。道はともかく、岩はもはや運ではないか?

ホーチミンのホステルでビールを飲んでから、水とコーヒー以外口にしていなかったので、車内販売でカップラーメンを買った。鉄道のデッキには熱湯の出るボトルがある。給食のような窪みのあるトレーに、スープ、ごはん、チキン、煮卵、おひたしを取り分けてくれる食事も買って食べた。

大きめの駅に停まると、地元の人が食べ物を売りに車内に入ってきたりホームに売店のある駅もあった。おじいさんがバナナを買ってくれたりした。「世界中旅行してわかったが、この世界にまともな国は一つもない。でも旅をする方がオーストラリアで年金生活を送るよりは少しだけマシだ」と言っていたのが印象的だった。そういう老人になりたいと思った。スタンプだらけのパスポートがうらやましかった。

ダナンに着いたのは19:45で、時刻表によると19:20着のはずだった。駅のwifiで地図を開き、ナビにして歩き始めた。駅から徒歩10分のホステルを予約してあった。ホーチミンと違って湿度が低く空気がひんやりしていた。少し歩くと、ヘイヘイ!みたいな呼び声がし、振り向くと鉄道の乗務員の男性が2人、屋台でごはんを食べていた。混ざるように言われ、3人でビールを飲んだ。茹でた鶏をチリソースで食べながら、お腹空いてたんだ、と言うとさらにおかゆみたいなものを注文してくれた。あまり英語は通じなくてDo you live in Da Nang? と聞くとDa Nang is my house. と返ってきた。その後、その乗務員の兄とその同僚という男性がその店の前を通りかかり、5人で乾杯した。誰かが缶ビールをコップに注ぐたびに、5人で乾杯した。お金はいらない、と言われいやいやそんなわけには、と言ったらじゃあ一緒に写真を撮ろう!とみんなで写真を撮った。朝までハシゴ酒を思い出した。

食事をしたせいでiPhoneの道案内が切れ、いつのまにか街灯もなく暗闇とiPhoneだけになってしまった。躓いて下をよく見ると線路の上だった。そこで暗闇からママチャリを押す女性らしき姿が見え、お互い驚いて声をあげた。そのおばちゃんに駆け寄ってスマホを見せ「ここ行きたいんですけど!」と言う。いや〜わかりません、みたいなことをベトナム語で返されていると、さらに後ろから別のおばちゃんが来て、2人でスマホ画面を見て「これはあそこの通りじゃないか」みたいなことを話していそうだった。後から来たおばちゃんが、着いてこい、みたいな動作をするので2人で着いて行くと、少し開けた通りに出た。布屋のような店の中に向かって呼びかけると旦那さんと思しき男性が出てきて、おばちゃんは「この人ここまでバイクで送ってって!」的なことを言い、ヘルメットをかぶせてくれた。ありがたい。おじさんはかなりめんどくさそうだった。2人のおばちゃんが手を振って見送ってくれた。

布の店からバイクで5分程でホステルに着いた。お礼を言おうと振り返ると、おじさんはすでにいなくなっていた。

個室のホステルは快適で、テレビでNHKワールドニュースが見れた。ホーチミンで日本人が電車を建設中だと伝えていた。