2019年1月20日 香港2日目

7時前に目が覚め、またCalifornia Dreamin’を聴きながら読書をした。星野博美『転がる香港に苔は生えない』では、まもなく香港がイギリスから中国に返還されようとしていた。受付とは11時前の約束だが万が一………と期待を込めて受付をのぞいてみたが、電気すらついていなかった。
昨晩しょぼい麺とビールでごまかした胃はからっぽで、ガイドブックを開いて朝食ができるお粥屋さんを見つけたのでそこまで歩くことにした。地下鉄で一駅分、地図通りに目抜き通りを北上するとだいぶ地理感覚がつかめた。2駅は余裕、最悪4駅までは徒歩圏内だと思った。牛肉のお粥にお茶がついて43ドル(約600円)、普通〜少し高めだなと思ったが、お粥はめちゃくちゃ美味しかった。きた道を戻ってもまだ10時前で、さらに読書で時間を潰した。
10時すぎに受付をのぞくと昨日とはまた別の黒人がいた。「昨日11時前に部屋を変える話をしてて、しかも宿代も残りがあるが、もう出かけたい」と話すと「お金はボスが来ないとわからないから、とりあえず荷物を部屋の前に出しておいてくれれば新しい部屋に運んでおくよ」と言われたのでその通りにすることにした。コンチネンタルホテルみたいな人がボスらしい。川龍村に向かう。
地下鉄の最終駅からミニバスで20分、とネットで見つけた個人のブログの情報をコピーして持参していた。


「駅から始発のミニバスで終点まで行くだけなのでわかりやすいですね♪」とのこと。


しかし教示通り80番のバス停を探すが見つからない。道行く人に尋ねるも、みなバス停の場所までは知らないようだ。1時間近く歩き回り、12時になろうというところで駅まで戻ると、学生風の男女を見つけた。近づくと、イケてない風貌の男子3人とゴスロリファッションの女の子の4人組。オタサーとその姫と思しきグループだった。彼らも遊びにきているのでこの辺のことはよく知らないと言ったが、ネットで調べて教えてくれた通りに歩くと、バス停は商店街のはずれにあった。知らなきゃ見つけにくい場所だが、バスはすぐにきた。バス停さえ見つければ、たしかにわかりやすい。ブログのコピーはその場で捨てた。
ミニバスは乱暴な運転でどんどん市街を離れ、山を登る。緑の中にビルがグサグサと突き刺さっているように見える。終点に着くと飲茶楼はすぐにわかった。日曜日だからか、家族連れで賑わっていた。
大きな蒸篭を開けるといろいろな食べ物が入っていて、セルフサービスで席で食べる。鶏の炊き込みご飯と中華まんを取って茶を淹れた。
摘みたてのクレソンが食べられるという情報だったが、そんなものを食べている人はいない。どの蒸篭にも保温器にもそんなものは入っていなかった。2階にも茶葉と熱湯のサーバーがあり、トイレの前で茶を淹れると、半分便所飯が完成する。「川龍不息鳥争鳴」という看板があり、「鳥の歌を聴け」というような意味だろうと解釈した。 飲茶を終えて畑に降りると一面がクレソン。普段パソコンを睨んでばかりいる目には眩しすぎる濃い緑だった。


地下鉄2駅分歩き、蒸篭を買ったりマンゴージュースを飲んだりと寄り道をしながら重慶大厦に戻ると、まだボスはいなかったが、新しい部屋に変わっていた。窓がなく、居心地のいい独房みたいな雰囲気だった。読書は悪徳不動産屋とバトル後、引っ越しの展開だった。


夕方に港でも見に行ってみようと5〜6分歩くとすぐに埠頭に着いた。向かいの香港島のビル群はブレードランナーさながらのネオンがギラギラしていた。思わずフェリーに乗り込み、香港島へ向かう。
降りた港は道路が工事中で、バリケードがあちこちに張られ、地下鉄駅への案内を頼りに歩くがぜんぜんわからない。地図と案内を見比べるが、見渡す限りバリケードなので途方に暮れていると、「なにかお困りですか?」と女の子が声をかけてきた。女子大生とその母親だった。「駅へ行きたいのですが」と言うと「私たちも行くのでよければ一緒に行きましょう」と言ってくれた。「香港は初めてですか?」「私たちも(同じ)フェリーできたんです。ここ、工事中だからなかなか分かりづらいですよね」「日本の方ですか。去年家族旅行で北海道に行きましたよ。素敵なところでした。ねぇ、お母さん?」なんとも気持ちのいい世間話だった。話しながらビルの中を抜け「この先まっすぐ行って階段を降りれば駅ですよ。どうぞ良い旅を」と言われて別れた。なんとも知的で優しい女の子だった。
地下鉄で九龍島まで戻り、チェーン店でラーメンとキノコの炒め物を食べた。帰りに重慶大厦一階の売店でビールを買う。「どこからきた?」「日本」「あ〜ニホンね」「あなたは?」「インド」「インドのどこ?」「ニューデリー」「いいね」「ビールにスナックはいかが?」「じゃあ小さいの」
部屋に戻ると受付にボスがいたので、残りの宿賃を払ってパスポートを返してもらった。この日は本当に歩き疲れた。たぶん40kmくらい歩いたんじゃないかと思う。シャワーを浴びて、金属製のベッドの上で足の疲れをとるヨガのポーズをいくつかとってから、 California Dreamin’を聴いて読書をした。