2017年10月4日 仙台市民東京へ行く

入社して3ヶ月経ったのだが、有給休暇の権利が入社半年以降しか与えられないので、欠勤の申請をして休みをとった。申請前、休みが取れなかった場合に備え、知人に「親類を装って、親族に不幸があったと迫真の演技で会社に電話をかけてほしい」と会社の電話番号を教えていたりしたのだが、あっさり通った。

 

欠勤する人間を、誰も止めることはできない。

 

東京に住む友人とランチをする約束があった。燻製を教えてくれた人だ。指定された会社に向かうと、駅直結の外国の高級ホテルみたいだった。今からここから出てくる人と会話をする自分がぜんぜん想像できなかった。警備員がチラチラ見てくるので、とりあえず腰に巻いていたデニムジャケットをほどいた。ロビーのソファに座って待っていると、1メートル四方の立ち飲み屋くらいの高さのテーブル?に、スーツを来たおじさんたちが群がり始め、ひそひそ声で話していた。けっこう小さいテーブルなのに、6人くらい集まっていて、ギュウギュウに見えるので不気味だった。お互いの顔もけっこう近いんじゃないのかな。おじさんを引き寄せる匂いとかが出ているのかもしれない。そんなビジネスピーポーたちが去ると、警備員と受付嬢と自分だけになり、そのテーブルを確認してみたのだが、特に何も変わったところのないテーブルだった。おじさんにしか感知できないいい音やいい匂いを発しているのかもしれなかった。

友人と寿司を食べながら、燻製にしたらうまい食材の情報交換や、ぬか漬け、手作り味噌の話で盛り上がった。スモークサーモンの温度調整のために熱源と食材の距離をとる装置をダンボールで自作したそうだ。普段はお弁当を作っていると言っていて、私も作っているので、お弁当の作り置きおかず等かなり所帯じみた会合になった。会社に戻りながら、そういえばヨガを始めたよと言ったらかなり関心を示していた。

 

次に東京で無職をしている方をキャッチボールに誘った。けっこうキャッチボールには自信があるのだけど、私の方がだいぶ下手だった。極度に湾曲したベンチは人間が座るのはもちろん、コーヒーカップを置くのにさえ適さない。ホームレスをここで寝させないための工夫だ。「ケチだ」「さもしい」「知恵の無駄遣い」等と二人でベンチを罵りながら仙台駅で買ってきたワンカップと笹かまをかじった。家のテレビが壊れてしまったが無職なので何もできないと言っていた。無職は平日の昼間に業者の立ち会いをするという重要任務に就くことができるし、直す業者のおじさんに「がんばれ♡がんばれ♡」とエールを送ることもできますよ、と言った。終わってから気づいたが、その公園はキャッチボール禁止と書かれていた。神田で別れてお台場へ向かった。改札で女子高校生に思いっきり舌打ちをされたが、自分の何が悪かったのかわからなかった。

 

東京テレポート駅に、線路をつたって到着するのは不思議な気分だった。ベル・アンド・セバスチャンに会うのが東京に来た真の目的で、初めて生で見たフジテレビの丸い球体の中身について考える暇はない。キャッチボールで汗びしょびしょなので、物販でTシャツを買って着替えた。古いレコードのTシャツを着ている人も何人か見かけ、ファンが観に来ているのは想定内なのだけど、それでも、同じ目的で別々の人が一箇所に集うというのはとてもすごいことのような気がした。これがスポーツ観戦だったらこうは思わないだろう。世界一平和な空間だと思った。

古い曲から新曲まで、かなりバランスのとれたセットリストだった。外国の地で言葉も通じてるかどうかわからない人たちの前で演奏してお金をもらうというのは、めちゃくちゃにかっこいい。渋谷から東京テレポート駅までの素人が撮影した映像にちょっと泣きそうになったりした。Little Lou, Ugly Jack, Prophet Johnをまさか聞けるとは思っていなくて(ノラ・ジョーンズは来ていないように見えたので)、しかも映像がルー・リードジャック・ケルアック(たぶん)、ジョン・レノンで、この曲にそんな意味があったのかとただただ唖然としたり、「悲しい歌は明るく歌われなければならない。乗り越えるためなのだから。」というマードック哲学に最高になった。客席のリクエストを受け付けると言ったので

「Nobody's Empire!!!」

と世界一でかい声で叫んだつもりだったが、ステージまでは届かなかった。この世界は声のでかい人間が強い。声がでかくなければ、誰にも聞いてもらえない。声のでかくない人間は存在しないのと同じだ。けれども、今ギターを練習中のJudy And The Dream of Horsesで〆だったので、これはもうマードック先生に直接ギターを教わったと言っても差し支えないのではないか?早く弾けるようになりたい。

一緒にコンサートを観た人と食べたサラダがおいしかった。「このドレッシングはいろいろな解釈ができる」という言葉通り、すべての味がするようであり、なんの味もしないようでもあった。知らないお酒しか並んでいないバーに連れて行ってもらい、やはりそこでも腰に巻いたデニムジャケットをほどくことになった。スニーカーで入ってよかったんだろうか?

浅草に泊まって朝の新幹線で仙台に帰った。けっこう寝坊したのでダッシュで向かったら10分前くらいに着いた。はやぶさは久しぶりに乗ったが、大宮から仙台までノンストップだし、終点が盛岡なので気を抜くことはできなかった。仕事に行きたくなさすぎて、せっかく買った駅弁を半分も食べられなかった。駅から職場まで、つまらない景色のはずが、お台場で素人撮影映像とベルセバを並走した感動が蘇り、いつもの灰色の街に色がついて見えた。けれども、これからの楽しみは何もなかった。あとは悲しい歌を明るく歌っていくだけだ。