2017年5月28日(ホーチミン市内)

朝シャワーを浴びてロビーに降りると、受付の女の子がGrabを教えてくれた子だった。「ダナンから帰ってきたんだね」と言われ「あのアプリすごく便利で毎日使ってる!ダナンでも使えたよ」と言うと「そうなの!?ホーチミンだけじゃないんだ!」と驚いていた。ダナンでは車のタクシーしかなかったけど、と付け加えると「私よりベトナム詳しいかもね」と笑っていた。

中央郵便局へ、例のおじいさんを探しに行った。日曜日で観光客でいっぱいだった。郵便受付の女性に「ちょっと聞いてもいいですか?」と聞くと険しい顔で首を振られた。観光ツアーデスクの女性に「ここに字の書けない人の代わりに手紙を書いているおじいさんを知りませんか?」と聞くと、「手紙を書いているおじいさん………あぁ!向こうの机で書いてるはずですよ」と教えてくれた。行ってみてもいない。「いないんですけど」と同じ女性のデスクに戻ると、カウンターから出てきてくれた。「今日は日曜日だからお休みしているのかもしれません。明日はきっといるはずです」と教えてくれた。

 

バイクタクシーでガイドブックに載っているサイゴン川の向こうのちょっとハイセンスなショッピング街に行ってみた。ベトナム在住のヨーロッパ人のデザイナーが作っている磁器の皿を買った。途中雨が降ってきたがすぐに止んだ。丸亀製麺を見つけ、嬉しくなって入った。麺は日本と変わらない。つゆは少し甘めな気がした。でも、日本ではおろし醤油うどんしか頼んだことがなく、丸亀製麺の釜揚げうどんは食べたことがないので、細かい比較はできなかった。

スーパーに寄ってから映画館に行った。「聲の形」が上映中だった。今日の回はすでに終わっていたので、明日の上映はあるかと聞くと、明日この作品は休映だと言われた。ロビーの画面で神山健治の新作PVが流れていた。けっこう面白そうだ。

トイレに入ると、Thank youから始まる「いつもトイレを綺麗にご利用いただきありがとうございます」という文の張り紙が貼られていた。この言い方を嫌う人が多いとツイッターで見たことがある。たしかに先にお礼を言うことでプレッシャーをかけているかもしれない。英語の下にベトナム語が書いてあり、それも同じくCam on(=ありがとう)から始まっており、続きは読めなかったがおそらく同じ言い方で書かれていた。

 

ホステルに戻るとスウェーデン男子に会った。「もう戻ってきたの!」と驚かれたが、明日には発つからと言うと、自分も明日の昼にはダラット(ベトナムの街)へ発つよ」と言った。バックパッカーの日本人男性もいた。福岡出身だと言っていた。寝台列車の話をすると、いくらかかるのかと興味をもたれ、ハードベッドにするくらいならソフトシートがマシだと教えた。

ホステルの近くの屋台で買ったドラゴンフルーツのジュースを飲んでいると、みんなが「それ一口ちょうだい!」と言ってきて皆で回し飲みした。わりと回し飲みには抵抗があるのだが、皆普通にやっているので気にしないふりをした。スウェーデン男子は甘すぎる、と言っていた。屋台で買ったときに「初めて食べるんです」と言ったらおばちゃんが味見をさせてくれたのだが、水っぽい無という味だった。砂糖はたしかにたっぷりと入れていた。

ホステルに新しい人がやってきた。スロバキア人の女子で、ドイツ語の教師を辞めて旅に出てきたと言った。鼻筋がスッと通っていて、左右対称の綺麗な顔の人だった。インドの男子がさっそくナンパしていた。それからベトナムチェコ人という男子もいた。両親はベトナム人でチェコ育ちだと言った。彼はベトナム語も理解できるので「これはベトナム語でなんと言えばいいのか」と聞くとなんでも教えてくれた。

あとはひたすらにビールを飲んだ。ホステルの受付で冷えたサイゴンビールが瓶一本15000ドン(約75円)で買える。けれど、マレーシアのタイガービールが好きなので、何度かコンビニまで買いに行ったりもした。誰かの置いていった茹で落花生が妙に癖になる味だった。スウェーデン男子が今日マーケットで買ったというゴマをかためた甘い菓子をくれた。パッケージにはなぜか日本語で「らっかせい」と書かれていたが、かなり美味しかった。

インドネシア女子は日本のポップカルチャーに詳しいのでその話していると(AKBはJKBと呼ばれ人気があるらしい)、スウェーデン男子が「日本の歌ってアイラブユーとかときどき英語まじってるの、すごく変だと思う」と入ってきた。そこから音楽の話になり、少しの洋楽と90年代の邦楽ロックバンドと、最近はテレビの影響でヒップホップも聴いてるんだと言うと、スウェーデンでもヒップホップは人気があるよといくつかのグループを教えてくれた。日本に帰ったら検索するから、と言ってiPhoneのメモ帳に入力してもらった。スウェーデンってデスメタルとかじゃないんだ…。日本のヒップホップも教えてと言われ、YouTubeBuddha Brandを検索していると、画面を覗き込みながら、「この名前は見たことがある」と言っていた。インドネシア女子は興味がなさそうだった。女子が昨日熱を出したと言ったので、冷えピタとポカリ粉末をあげた。

ビールを7本くらい空けたあたりでだんだんロビーに人が減ってきたが、酔っ払って楽しくなってきた。インド男子はスロバキア女子に「スロバキア語でセックスしようってなんて言うの?」と執拗に聞き、女子が答えるとそれをそのまま彼女に向けて発していた。日本語では何て言うのか聞かれたので「教えない」と言った。

そのあたりからいわゆる恋バナが始まり、インドネシア女子は来週カンボジアで彼氏と会ってそのまま二人で旅行をするのだが、彼はヨーロッパに帰りたくないので、先行き不透明だと言っていた。スウェーデン男子は学校は男子の割合が高く、女友だちはいるけど彼女はいないと言っていた。スロバキア女子は彼氏を振ってから旅に出てきたと言っていた。修学旅行の夜の気分だった。とにかくビールが進んだ。インドネシア女子がスウェーデン男子とインド男子に、日本語の告白は「スキデス」だと教えると、二人ともスキデスを連発していた。

 

「お腹すかない?」というスウェーデン男子の一言でフォーを食べに行くことになった。誰か他に行かないかと聞くと、皆もう寝ると言われた。夜遅くまでやってるフォーの屋台があると言うので二人で外に出た。数日前にあまりにラーメンの話がうるさいので「これが日本のラーメンだよ!」とラーメン二郎の画像を見せたら「ゴミみたい…」とがっかりしていたのだが、歩きながら「日本は飲みの〆にラーメンを食べるんでしょ?」とラーメンへの興味は健在だった。スウェーデンの学校を卒業したらシェフになりたいと言っていた。それを聞いてから、彼からの食べ物の質問は蔑ろにしないようにした。屋台へ行く途中、バーのテラス席から男性3人がこちらに手を振ってきた。男子の友だちだった。3人ともかなり酔っている様子だった。5人で飲もうと誘ってきたが、「今はとにかくフォーが最優先だから、食べたらまたここに寄るから飲んでて」と言っていた。ホステルからどのくらい歩いたのかわからないが、けっこう歩いてきた。

何時だったのかもうわからないが、夜中でも活気のある屋台だった。男子はフォー、私はワンタンスープを注文した。手元がくるってラー油を入れすぎたが美味しかった。でも飲みすぎていたのでワンタン2個くらいしか食べられなかった。SAKEを飲んでいるから酒に強いのか、と聞かれたので、たぶん遺伝だと答えた。「日本語でspicyは何て言う?」と聞かれ、「からい」と言うと、「じゃあわさびの辛いのは何て言う?」とさらに聞かれ、それもからいだと言った。「わさびが辛いのと唐辛子が辛いのってぜんぜん違うと思うんだけど。わさびは鼻にくるでしょ」と言うので「もしかしたらその違いを表現する専門用語があるのかもしれないけど、日常生活ではどちらにもからいを使う。そういえば、昔は塩味のこともからいと言っていたらしい。あと私の亡くなった祖母は、ガムのメントールがスース―することもからいって言ってた」「味覚に対してボキャブラリー少なすぎない!?」と驚いていた。

男子が食べきれなかったワンタンスープを食べるというので、食べる様子を眺めていた。「おいしそうに食べるってよく言われない?」と聞くと「箸使いが上手いってこと?」と聞き返され「いや食べてるときが幸せそうだってこと」「それ太ってるからじゃない?」「そこまで太ってないでしょ。そういうことじゃなくて、一つの才能だよ。」「そう?」「綺麗に食べるのは練習すればいいけど、おいしそうに食べる練習方法は誰も知らないんじゃないかってこと」「ふーん。初めて言われたけど、なんかそれいい話かもしれない」という話をした。

「この後さっきの友だちと飲みに行くけど一緒に行く?」と言われた。「今日は十分飲んだし、私がいない方がいいと思う。」「なんで?一緒に行こうよ」「深夜のバーで男子が何を話してるか、私は知る必要がないでしょ。」と答えると「なるほどなかなかスマートだね。」「そういう民族なんだ」「じゃあホステルまで送って行くよ。どうせいつまでだって飲んでる人たちだし」「大丈夫一人で帰れるよ。」と言って歩き始めるとついてきて、「ねえ、よくダナンまで一人で行って帰ってきたよね。そっちじゃないって」と笑いながら、後ろにある公園を抜けて右に曲がるとすぐだと教えてくれた。帰りは来た道よりだいぶ近かった。

 

シャワーを浴びたらなんとなく熱がある気がしたので、おでこに冷えピタを貼って寝た。