2017年5月30日仁川国際空港→ソウル市内→帰国

深夜の離陸だった。眠くて仕方なかった。電気の消えた機内をCAが「お食事はどうしますか?」と聞いて回っていた。頼んでいる人は数人しかいなかった。自分も断った。ただやたらに喉が渇いて、2回水をもらった。ほとんど眠りながら、こんなに喉が渇くのはビールのせいなのかマリワナのせいなのか機内のエアコンのせいなのか、と考えていた。

 

朝8時前に仁川空港に着いた。乗り継ぎで一時入国するのは初めてだった。入国と荷物の受け取りまではすんなり行った(ベトナム出国の際に「手荷物を韓国で受け取りたい」と伝えていた)が、スーツケースを預ける場所までが遠かった。15:35発のEチケットを見せると「14時までに取りに来てください」と言われた。スーツケースとリュックを預けて10000ウォン(約1000円)だった。これがデポジットならいいな、と思った(デポジットではなかった)。仁川空港内は、ときどき稲中死ね死ね団が乗っているような乗り物で利用者を運んでくれるサービスがある。そしてやはり死ね死ね団みたいなちょっと間の抜けた音楽が流れているので見かけると笑いそうになる。去年韓国を訪れたときのsuica的な交通カードでソウル駅を目指す。仁川国際空港とソウル駅は片道だいたい50分くらいかかる。仁川空港にはパンフレットがあり、英語、日本語、フランス語、中国語、あともう一言語くらいのバージョンがテイクフリーで置いてある。それはパンフレットと呼ぶにはあまりにしっかりしている。地下鉄案内図や地図だけでなく、所用時間ごとの観光コースなどが極めてわかりやすく載っている。ソウル市内のみならず、釜山や郊外についても書かれているので、ちょっとした旅行であれば、わざわざ高い金を出してガイドブックを買う必要はないと思う。もちろんディープな韓国を体験したいのであれば別だろうが、しかしディープな韓国情報が一般的なガイドブックに書いてあるものだろうか?

 

ソウルに出た目的が2つある。1つは朝ごはんを食べること、そしてマッコリを買うことだった。

明洞(ミョンドン)まで行けば買い物が出来ることはわかっていたが、韓国の地下鉄は巨大すぎることを前回学んでいたため、できれば使いたくない。駅中の案内図はとてもわかりやすいので、案内通りに行けば目的地には着けるのだが、地中深すぎて、油断していると気づけばB7くらいにいる場合がある。エスカレーターも長い。それは巨大な蟻の巣を連想させる。開発中に温泉とか出なかったんだろうか。なのでできれば仁川空港→ソウル駅→徒歩で明洞、くらいを考えていた。

とりあえずカフェに入って今後のルートを考えた。カフェに入る予定はなかったのだが、店員のお兄さんがかっこよかったせいで、気づいたらアイスコーヒーを注文していた。男性のツーブロックはさわやかで素敵だと思う。

ソウル駅と明洞駅は2駅しか離れていないので、お兄さんに歩いて明洞に行きたいことを言うと、できないことはないけどけっこう遠いから電車を使うのがいいと言われ、その通りにした。駅の中で警察に道を聞いたらとても親切に教えてくれた。たぶん英語の中でも敬語とされる部類の言葉遣いだった。仙台駅周辺で、無灯火でチャリに乗っていた警官や、夜中に高圧的な態度で無意味な職質をかましてきた警官を思い出して、この警察が当たり前の警察なのか、それとも自分がごく稀にいる良い方の警察を引き当てただけのか、と思った。

 

明洞に着いて、お粥の店が目についたので入ろうとメニューを見たら、一番人気のアワビやらの入ったすごいお粥が15000ウォン、普通のお粥でも8000ウォンだった。もともと50000ウォンあったのを空港で10000ウォン使い、suicaのような交通カードに10000ウォンを入金し、さらにコーヒーも飲んだことを考えてこれから買い物をすることに不安を覚えたため、両替所を探した。両替所のおじさんに1万円札を出して「5000円分両替してください」と言うと、日本語で「オツリナイ」と言うので仕方なく1万円を両替した。去年はそんなことなかったので、もっとしっかりしたところを見つければよかった。レートもたぶん悪かった。

ともあれ無事にお粥を食べることができた。韓国のごはんには常にキムチが2〜3種類とスープがついてくるので大抵食べきれない。嫌いなもの以外はできるだけ残さないことを心がけているのだけど、韓国では残すのがマナー(満腹の合図)だと聞いたことがある。贅沢な考え方だ。

時間もあるのでまた街歩きの真似事でもしようかと、明洞聖堂に向かった。ソウルは坂が多い。電車で来たのは正解だったと思った。地図アプリでは近く見えても、歩いてみると勾配がわりときつい。明洞聖堂の前で中国人の観光客に写真を撮ってくれるよう頼まれた。9人の家族だった。渡されたデジカメは半押ししないタイプのもので、5回撮り直した。9人全員から一人ずつ「カムサハムニダ~」と言われた。

キリスト教徒ではないし熱心な宗教もないのに、聖堂の中に入ると背筋が伸びる気持ちがした。

 

栗マッコリが美味いと聞き、買いに出てきたのだが、韓国語で何と聞けばいいのかわからない。化粧品屋のお姉さんにchestnutのマッコリ、マロンのマッコリ、とかいろいろ言ってみたのだが「?」という反応。お姉さんは日本語も少し話してくれるのだが、「栗」が通じない。わざわざiPhoneに日本語パッドを設定してくれ、何て言いたいのか聞いてくれた。とても親切だ。栗と入力すると「パンマッコリね!」栗=パン(ンというよりmの音かもしれない)らしい。どこで買えるのか聞くが、知っているけど買ったことがないらしい。スーパーに行ってみるといいと場所を教えてもらうが、売っていなかった。

 

 道端でマッサージのキャッチをしている女性に、化粧品屋のお姉さんにパンマッコリの写真を見せると、配っていたチラシの地図に二ヶ所丸をつけ、「大きなデパートの地下に行ってみるといい」と親切に教えてくれ、地図もくれた。

 

無事デパ地下でマッコリ3本を買って、ギリギリで空港行きの特急に乗った。中では無料でWi-Fiが使えた。

スーツケースにマッコリを詰め込むと、預け所の男性が、ギリギリだから搭乗口まであれに乗って行け、と稲中死ね死ね団のような乗り物に乗せられた。

飛行機の中では「君の名は。」を観た。

 

仙台駅行きのアクセス鉄道の中はスーツを着たサラリーマンがたくさん乗っていた。ここには自分の意思で帰ってきたはずだった。面接を受けたときは、口先だけでもこのおぞましい群れにまた取り込まれることを望んでいたはずだ。きっと別な選択肢もあるし、この街で暮らす必要もまあない。けれどそのように生きていくことを自分で望んだんだ、と言い聞かせるも、殺意や憎悪は次々にわいてきた。 

 

一週間ぶりに見る生まれ育った街は、驚くほど醜かった。